さて、ここからは高気密高断熱住宅の間取りの作り方・設計手法について紹介します。
一般的な住宅と違い、自由設計をしただけでは性能を発揮することはできません。
高気密高断熱ならではの設計手法を一通り理解しておくことで、幸せな間取り作りにつながります。
断熱性能は外皮面積に左右される
断熱性能はUa値で表されます。
一昔前まではQ値というものが使われていましたが、これは床面積に対する断熱性能を表します。
それに対してUa値は外皮面積に対する断熱性になります。
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Ua値が断熱性能を表す数値なんだね
外皮面積とは外壁はもちろんのこと、床や屋根など断熱材による外気との熱的境界線の事です。
同じ床面積の家であれば、外皮面積が多ければ多いほどUa値は悪くなります。
L型配置の家よりは真四角の家。平屋よりは2階建ての方が、単純に性能値は良くなるのです。
また、外形をシンプルにするほど気密性能も出しやすくなります。
凹凸が少ないと竣工時の気密測定で数値が出ることはもちろんですが、将来的な気密の劣化具合も小さく抑えることができます。
忘れがちなのですが、家の性能は竣工時が最大であり、その後は徐々に低下していきます。
建物の凹凸があると、施工が難しく手間がかかり、断熱気密の弱点になることも知っておきましょう。
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シンプルな建物形状は高性能の証なんだね
シンプルな外形は、結果として雨漏りのリスクが少なく、構造面でも有利に働きます。
ガチャガチャしたプランがカッコよく見えたりしますが、本当に良い家を考えるとシンプルなデザインが一番です。
方位を考慮して日射を味方に付ける
高気密高断熱住宅においては、建物の方位が重要になってきます。
次の項目で説明する庇を組み合わせることで、夏の日射を遮り、冬はしっかり取り込む。
そんな自然のエネルギーを利用した家づくりが可能になります。
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建物の方角と庇を考えると、どんな設計になるの?
朝日が昇る東と、太陽が沈む西は太陽高度が低く、南側は必ず太陽高度が高くなります。
夏を考えると、東と西は日射による熱を取り入れたくないので、窓は少ない方がいいです。
南側に関しては、庇がしっかり出ていれば夏の日差しを遮ってくれますので、家の中が暑くなりにくくなります。
それに対して冬は夏よりも太陽高度が下がります。
夏は庇によって遮られていた日差しが、太陽高度が下がることで部屋の奥まで差し込みます。
太陽の光が入ることで熱が発生し、それが暖房の代わりになるのです。
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上手く設計すれば太陽が味方になるんだね
建物が密集している土地においては、周辺の建物も考慮する必要があります。
どの建物が日差しを遮るのかを確認し、日差しを取り込める空地を見つけるところから設計は始まります。
このように日射をコントロールする設計をすれば、太陽は味方になってくれるのです。
ところが、こういった日射を考えた設計をしないと、高気密高断熱住宅の場合は致命傷になることがあります。
致命傷とは大げさかもしれませんが、実際に夏のエアコンが効かなくなることがあります。
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夏にエアコンが効かないのは地獄だね・・・
高気密高断熱住宅とは、言わば魔法瓶のような家です。
冷やしたり温めたりすれば、それが長持ちするのが特徴です。
そんな魔法瓶のような家に、夏の日差しがガンガン入ってきたらどうでしょう?
室温が上昇し続け、いくらエアコンを使っても温度を下げることができません。
これまでの一般的な断熱性能の家ならば、昼間に上昇した室温は夜のうちに抜けてくれます。
高気密高断熱の場合は次の日まで熱を持越し、エアコンの能力を上回ってしまいます。
これをオーバーヒートと呼んでいます。
高気密高断熱住宅において、オーバーヒートは完全な設計ミスです。
知識の乏しい会社では起こりえる話なので、十分注意しておきましょう。
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日射に配慮した設計になっているか注意だね
庇・外付けブラインドで夏のオーバーヒートを防止
先ほどから出てくるワード『オーバーヒート』
そんなの車の故障じゃないか!と思うかもしれませんが、高気密高断熱住宅の場合はあり得るのです。
オーバーヒートを防ぐには、日射をコントロールすること。
そのためには建物の方位と合わせて、庇や外付けブラインドといったパーツも重要になってきます。
外付けブラインド?
ブラインドが外側にあるの?
初めて聞いた方も多いかもしれませんね。
外付けブラインドは高気密高断熱住宅に力を入れている会社なら、採用しているケースが増えてきました。
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外付けブラインドとは、その名の通り建物の外側に設置するブラインド。外部ブラインドとも言います。
室内に設置するブラインドは目隠しが目的ですが、外付けブラインドは日射をコントロールする部材です。
庇が設置できない窓や、方角が悪く西日が入る窓に有効です。
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室内のブラインドでも一緒じゃないの?
太陽の日射に関しては外で遮るのが最も効果的です。
室内側でカーテンなどをしても、結局はカーテンが熱せられて室温上昇の原因となります。
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室内のブラインドやカーテンでも無いよりはマシですが、日射のコントロールは高気密高断熱のキモ。
妥協するところではないと私は考えています。
ただし、外付けブラインドはお値段が高いのがネック。
必要なのは外部で日射を留める手段なので、日本ならではの簾(すだれ)やロールスクリーンのようなシェードでも大丈夫です。
私のオススメとしては植物を利用すること。
窓際に落葉樹を植えれば、夏は葉を茂らせて影を作り、冬は枝だけになるので日差しが届きます。
自然の摂理を利用させていただくことで、人が操作する手間を省くことができるのです。
このように、太陽や植物など自然の力を利用する設計手法をパッシブ設計と言います。
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自然の力を利用するパッシブ設計って素敵だね
パッシブとアクティブ
パッシブ設計に触れたので、パッシブの反対あたるのがアクティブです。
自然を利用して室内の温熱環境の手助けをするのがパッシブですが、アクティブの場合は機械などを使って室内環境を積極的にコントロールします。
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自然の力がパッシブ。機械など利用するのがアクティブなんだね。
最近ではスマートホーム化も話題になり、エアコンの自動化などは容易にできるようになりました。
先ほど紹介した外付けブラインドも、季節や天候・風などをセンサーとデータから読み取り、自動で開閉することも可能です。
最近ではこれに換気なども含めて自動化し、室内環境を快適にコントロールする技術も動き始めました。
さらに、太陽光発電や蓄電池とも連携すれば、家電を含めた使用電力の最適化も自動で行ってくれます。
これは近い将来のアクティブ設計住宅の未来ですが、簡単なところではエアコンをオン・オフしたり外付けブラインドを人の手で操作することもアクティブの一部です。
パッシブとアクティブ。
どちらがいいということは一概には言えませんが、基本はパッシブだと私は思っています。
人の手を介さず、自然のままに太陽をコントロールし、基本的にはほったらかし。
その方が、住んでいる人にストレスが少なく、気密断熱マニアのお父さんがいなくても快適に過ごせます。
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誰もが快適に暮らすにはパッシブをベースにするといいね
アクティブ側に極端に振ると、機械にトラブルがあったときに自分たちで対処できず困ることにも。
将来的なメンテナンスやシステムの更新も考えておく必要があります。
あくまでも、パッシブをベースに据えた上で部分的にアクティブを取り入れる。
それが私が考える、現状で一番いい選択肢だと思っています。
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換気設備の選択で家の性格は大きく変わる
建築基準法で24時間換気が義務付けられており、人が生活する上でも換気は重要な要素です。
この換気においては、唯一機械に頼らざるを得ないアクティブな部分です。
換気は室内の空気を捨て、外から新鮮な空気を入れる行為です。
その際、外の調整されていない空気が入って来ることを忘れてはいけません。
それは暑かったり寒かったり、乾燥していたり湿気ていたり。
それをコントロールするために、換気設備を工夫する必要があります。
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換気は外の空気を入れることを忘れがちだね
換気設備は大きく分けて2種類あります。
ダクト換気とダクトレス換気。
それぞれについて、大まかに説明していきます。
ダクト換気
外から取り入れたフレッシュな空気を、温度湿度を調整して各部屋に配ります。
その際にダクトを使用するため、ダクト換気(空調)と呼ばれています。
排気する空気も熱交換器を通すため、温めたり冷やしたりした室内の温度を再利用することができます。
各部屋に空気を送るため、家全体で温度湿度のムラが少なくなるのが特徴です。
デメリットとしては、設備の導入費用が高くなる傾向にあります。
その他、メンテナンスを個人で行うことが難しく、ダクト内にホコリが溜まりやすかったりもします。
ダクトレス換気
ダクトレス換気はその名の通り、ダクトを必要としない換気設備です。
各部屋に壁付けの換気扇が取りつき、熱交換エレメントを介して換気を行います。
メリットは導入費が安いこと。
システムが単純であり、メンテナンスも自身で行うことができます。
空調はエアコンに頼る必要があり、エアコンの無い場所では温度ムラができる場合があります。
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それぞれにメリット・デメリットがあるんだね
いずれの換気方法でも、高気密高断熱住宅においては熱交換器は必須です。
せっかく温めたり冷やしたりした空気を、捨てるだけではもったいないですからね。
その上で、換気設備の選択は人それぞれになるかと思います。
私個人としては、メンテナンスの簡単なダクトレス換気がオススメです。
耐震にもこだわるなら間取りもシンプルに
最近では耐震等級3を取得するのも珍しくなくなりました。
長く住む家ですので、その間に大地震に遭遇する可能性は非常に高いです。
耐震等級3で設計する場合、間取りに構造的な制約も出てきますが、家族の命を守るために1番大事なことだと考えています。
気密・断熱においては、シンプルな外観であると性能も良くなりますが耐震においても同じ。
単純明快・シンプルな構造こそが耐震性能も十分に発揮するのです。
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地震で倒壊したら高気密高断熱も意味が無いよね
耐震等級3にすると何が変わるのか?
単純には壁の量が変わります。
耐震性能を向上させるためには、耐力壁と呼ばれる耐震壁の量を増やします。
耐力壁は一般的に筋違と呼ばれる斜めの木材を使いますが、ボードなどの面材を使う場合も増えてきました。
※筋違(すじかい)、筋かい、筋交とも書きます
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耐力壁が増えることで、思ってもいないところに壁が出てくる可能性があります。
特に間取りを優先させたうえで、耐震等級3を取得する場合は無理が出てくることも。
先ほどからも出ている通り、耐震性能を考えるとシンプルな間取りの組み立てが必要で、この部分に関しては専門知識を持った設計士さんにおまかせするのが一番です。
もちろん、要望はしっかりと伝えて大丈夫なのですが、それに対する意見はしっかりと受け止めましょう。
実は、耐震等級の基準をクリアーした家と、本当に地震に強い家は別物です。
基準をクリアーするだけなら、裏技みたいな設計のコツがあるのですが、それ以外のところが大事だったりします。
命にかかわる大事なことですので、プロにお任せする気持ちを忘れないようにしましょう。
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大事な家だからプロに任せよう!
長く住む家なら可変性が必要
せっかくの自由設計。
造作家具で統一感を持たせたり、部屋の用途を考えていくのも楽しみの一つです。
この時の忘れてはいけないのが、将来に渡って今と同じ生活ではないということ。
子供部屋は子供の成長に合わせて使い方が変わります。
幼児期なら、ほとんど使わないので物干しや物置になるでしょう。
子供部屋で勉強するのは高校受験以降かもしれませんね。
お子さんが就職したら子供部屋が空くかもしれませんし、そのまま実家暮らしなのかもわかりません。
つまり、部屋の使い方は家族の成長に合わせて変わるということ。
30年40年先までを完璧に予測することは不可能です。
では、どうすればいいのか?
そこは間取りに可変性を持たせることが重要です。
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老後だって、今とは部屋の使い方が変わるもんね。
先ほど少し触れた造作家具。
デザインを統一したり、スッキリとした納まりになるのが自由設計ならではです。
この造作家具は間取りに合わせて制作し、造り付けますします。
つまり、動かせない。
そのため、スペースの用途を限定することになります。
例えば、子供部屋に勉強机代わりにカウンターを固定設置することがあります。
子供が家を出て行ったあと、老後の自分たちの介護ベッドを入れたくても邪魔になるかもしれません。
このように、造作家具は将来的な間取りの可変性を制限する可能性があります。
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造作家具は取り外せないことを忘れがちだね
キッチン収納など、将来に渡って用途に変更が無いものは造り付けても大丈夫です。
用途が変わる可能性があるものは、家具屋さんで置き家具を買う方がいいでしょう。
それに対して、おすすめの造り付けは上部の棚類。
- トイレの収納棚
- 洗濯機上の棚
- クローゼットの枕棚
- キッチン収納の中でも上部の吊戸棚
基本的には、何かの上にくる空中の棚。
空中はいわばデッドスペース。
棚を付けることで確実に収納量を増やすせます。
お金を出す価値が十分あるのです。
下における収納は、家具屋さんでもホームセンターでも購入できます。
そして状況に合わせて変更もできるので、可変性を維持することにもなるのです。
ここまで、間取りの可変性について必要性を説明してきました。
ライフスタイルに合わせて住み続けられる家を意識して間取りを作っていきましょう。
そして、この可変性は万が一家を手放す必要が出た時、不動産としての価値にも影響します。
自分たちのためにオーダーメイドした家が、他の人にフィットするわけではありませんからね。
高気密高断熱だからこそ自由な間取り
ここまで高気密高断熱住宅の間取りの考え方について解説してきました。
耐震等級も合わせれば多くの制限があって、自分たちの理想の間取りが作れないんじゃないかと心配になりますね。
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自由設計と自由に間取りを作ることは別問題だね
実は、高気密高断熱によって新たに間取りの選択肢が増えることもあります。
例えば、大きく開放的な吹抜けを作る。
一般的な家であれば、暖房が効かず冬寒いからやめたほうがいい。
なんて話がありますが、高気密高断熱住宅なら熱が逃げにくいため、空間の上下で温度差が少なくなります。
他にも、景色を見るための大きな窓も、冷気が伝わってくるためお勧めしないポイントです。
ところが樹脂サッシやトリプルガラスを採用することで、寒さを気にすることが無くなります。
このように高気密高断熱にすることで、暑さ寒さから解放され新しい魅力のある間取りが作れるのです。
中庭が欲しいけど外皮面積が増えてUa値が悪くなるんでしょう
その通り!
ですが、ギリギリの性能でなく十分な断熱性能であれば、外皮面積が増えても影響はごくわずかとなります。
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高気密高断熱だからこその間取りも生まれるんだね
高気密高断熱は熱のバリアフリーであり、設計の自由度を上げる側面もあると考えています。
ただ、一般の人が考えて何とかなる内容ではありません。
熟知したプロの設計士さんと一緒に進めてこそ、本当に良い家ができると信じています。