後悔しないための心構え

高気密高断熱住宅について、こんな話を耳にします。

結露が無いし、冬でも半袖で大丈夫だって!
夏だって、蔵みたいに涼しいらしいし。
電気代も月1万円かからないって!

決して間違いではありませんが、すべては条件次第。
住まい方によっても変わってきます。

ここからは、期待値の高い高気密高断熱住宅だからこそ、住み始めたときに後悔しないための心構えをお伝えします。

過剰に期待せず、事実を知っておこう!

目次

結露は発生する

高気密高断熱住宅だからと言って、結露が発生しないわけではありません。
多くの人が勘違いしていますし、なんなら売ってる営業さんすらも結露しないことをセールストークにしています。
正確には結露しにくい家なのです。

え、結露するの?

下の写真は我が家の玄関ドアです。
高断熱玄関ドアとして販売されているYKKイノベストD50になります。
熱貫流率であるU値は0.95W/㎡・Kと、現在販売されている断熱ドアとしてはかなり高い数値のもの。
それでも外が0℃を切るような冬場の場合、ドアの隅が結露するのです。

結露した高断熱ドア

高断熱ドアと言っても、外壁の断熱性能に比べれば落ちます。
玄関ポーチから玄関内部のコンクリートも、断熱をしているとは言え冷気を伝えて玄関ドアを冷やしてしまうのです。

我が家の場合、冬場の室内環境は室温25℃の湿度50%程度。
この空気の露天温度は13.8℃なので、ドアの表面温度がそれ以下になれば結露します。
お料理で煮炊きしたり、お風呂の湯気で湿度が上がれば、もっと高い温度でも結露は起こりえるのです。

生活の仕方によっても結露の可能性はあるんだね

同じ理由で、樹脂サッシでトリプルガラスの窓であっても、ガラスの隅がわずかに結露していることがあります。
もちろん、ビショビショになるほどの結露は起こりませんし、より断熱性能の高い壁の中の結露リスクは極めて低い。
あくまでも物体の表面温度と、それに触れる空気との関係で結露が起こります。
結露するから欠陥住宅ではないことを、あらかじめ知っておきましょう。

エアコンは複数台必要

まず、前提条件としてエアコンは必要です。
どんなに高断熱化していようと、外からの熱はわずかばかり影響します。
人が生活していれば、人体や家電からも熱が発生しますよね。
特に夏に関しては、これらの発生した熱を捨てる必要がありますが、そのためにエアコンが無くてはならないのです。

空気を冷やせるのはエアコンだけだね!

概ね高気密高断熱住宅として作られる家は、エアコン1台で十分まかなえます。
ですが、これは性能の話。
自由設計である以上、間取りや立地条件は様々。
リビングのエアコンが子供部屋まで届くかは別問題です。

実際、私の家ではリビングと寝室に2台のエアコンを入れています。
容量的には8畳用1台でも十分なのですが、温度ムラを少なくするために8畳用1台と6畳用1台としました。
8畳用が容積の大きいリビングを。6畳用が寝室をメインに子供部屋2つをカバー。
これで家中どこでも、温度差が3℃ぐらいで納まるように仕上がっています。

間取りによってエアコンを分けたほうがいいんだね

2階建ての場合は、1階と2階で1台ずつは必要です。
大きな吹抜けがあっても、1台で家一軒をまかなうのはなかなか難しいでしょう。
また、子供が将来的に部屋にこもって閉め切って使うケースも想定しておくべきです。
社会人になって実家暮らしということも考えられます。その場合、部屋の入り口を開けっぱなしとは考えにくいですしね。

最初からエアコンを付けない部屋でも、コンセントとスリーブ(穴)は取っておくようにしましょう。

温度ムラが心配ならダクト空調を選ぶ

先ほどのエアコンの話は、ダクトレス換気の場合です。
ダクト空調の場合は、システムにエアコンが組み込まれている場合も多く、空気が循環するので1台で問題ありません。

換気空調システムによってエアコンの台数が変わるんだね

ダクトレス換気でエアコンを複数台設置するのは、温度ムラを解消するためです。
ダクト空調の場合は、ダクトによって各部屋に調整された空気が配られます。
つまり、各部屋にエアコンが付いているのと同じことになります。

家中の温度差を極力解消したいのであれば、ダクト空調の採用をおすすめします。
ただし、壊れたときが大変なので非常用の壁掛けエアコンがあってもいいかもしれませんね。

エアコンが夏に壊れる可能性も考えておきたいね

電気の単価は変動する

省エネ住宅なので、電気代は月に1万円程度です。
そんなセールストークで売っている場合も多いのですが、電気の単価は変動しています。

我が家の場合、2023年1月の電気代は昨年同月の1.5倍ほどの請求が来ました。
これはウクライナ危機にともなう燃料単価の上昇であり、火力発電に頼っている日本では影響が直撃します。
全く同じ電気使用量であっても、単価次第で変動することを忘れてはいけません。

ただし、高気密高断熱住宅なら使用する電気量が根本的に少ない。
電気の単価が上がっても影響は最小限に抑えられます。

家電のことを忘れがち

電気代の話をするときに忘れてはいけないのが家電のことです。
特に子供がいる世帯であれば、テレビが付けっぱなしになっていることもあると思います。
室内干しをするために、除湿器を使っていたり。
洗濯機の乾燥機能を頻繁に使っていれば、それも電気代に加算されます。

意外と盲点なのがウォーターサーバー。
いつでも熱いお湯と冷たい水で出てくるので便利なのですが、常に冷やしたり温め続けていることになります。
ウォーターサーバーが一台あると電気代が跳ね上がりますのでご注意ください。

省エネの計算で電気使用量を算定してくれる場合があります。
ですが、あくまでも一般家庭の場合。
マイホームを建てる世代は、小さなお子さんがいることも多いので、電気代は高めになることも覚えておきましょう。

換気扇を回しっぱなしにしない

高気密高断熱住宅の住まい方で大事なことですが、換気扇を回しっぱなしにしてはいけません。
一般的な家の場合、トイレやお風呂の換気扇を常時まわしているケースがあります。
臭いや湿気があれば、それも仕方のないことです。

ところが高気密高断熱住宅の場合は、換気扇を回すということはエアコンで冷やしたり温めたりした空気を捨てていることになります。せっかく電気を使って調整した空気を捨てるのは、もったいないですよね。
それと同時に、捨てる量と同じだけ外の空気を入れていることになります。

夏であれば熱く湿った空気が。
冬は冷たく乾燥した空気が入ってきます。
それをエアコンで調整するわけですから、またしても電気が必要になるのです。

玄関ドアが開きにくい

換気扇に関連して、高気密高断熱住宅ならではの事象をご紹介します。
それが、玄関ドアが重くて開けにくいです。
むしろ開かない場合もあります。

え、玄関が開かない?

玄関ドアが開かない原因は換気扇にあります。
換気扇によって室内の気圧が低くなり、外から玄関ドアが押さえつけられるようになるのです。
知らない人にはウソのような話でしょうが、高気密化で家全体の隙間サイズがハガキや名刺大であることを考えれば、換気扇をガンガンまわしてしまうと家の中が負圧になってしまいます。

そういった現象を防ぐために、風量の大きいキッチンの換気扇は同時給排型を使用するのが高気密化のセオリーとなります。
同時給排型換気扇は、排気する空気と同量を強制的に給気します。
そのため入りと出、2本のダクトが必要になります。
同時給排型を使用することにより、室内と室外の気圧差は少なくなり、玄関ドアが開かない問題を解消します。

同時給排型換気扇の仕組み

気密化には同時給排が必須なんだね

お風呂やトイレの換気扇は排気だけの場合が多いです。
使用している間は負圧になりますので、同じように玄関ドアが開かなくなります。
必要にない時は、換気扇を極力止めるようにしましょう。

音は意外と漏れる

高断熱化の過程で、断熱材を厚くしたりトリプルガラスを入れることになります。
その結果、防音性能も上がるのが高気密高断熱住宅です。
気密化によっても空気を伝わる音も少なくなりますので、外の音が聞こえにくい静かな家になります。

ついでに防音性能も上がるのはうれしいね

ただし、防音室とは違うことには注意しましょう。
断熱材も結果として防音・吸音に一役買っていますが、音の種類によっては漏れる場合があります。

楽器だとそれが顕著に出ます。
トランペットやギターなどは空気を振動させるため、断熱材である程度の防音が可能です。
ところがドラムやグランドピアノの場合、床から伝わる振動によっても音が伝わります。
床の振動は構造材を伝わるので、そのまま壁から音として漏れてしまうのです。

高い音と低い音でも違うよね

防音性能が高いというセールストークでグランドピアノを入れたりすると、音がダダ漏れで全然弾くことができない。なんてことが起こりえますので注意が必要です。
楽器を使う場合は防音性能の検討を必ず行いましょう。

冬に半袖で過ごせる!?

あの家のご主人、いつも半袖ですね!

これも高気密高断熱あるあるなのですが、冬でも半袖で大丈夫です!という方がいらっしゃいます。
たしかに、太陽がサンサンと降り注げば、27℃とかになってもおかしくありません。
あくまでも立地条件と気象条件、開口部の設計よるかと思います。

断熱性能が高いので、暖房機を使っても27℃にすることは比較的容易です。
ですが、その温度までもっていくのにエネルギーがかかりますし、維持するのも同じです。
無理に半袖で過ごすために設定温度を上げるのではなく、トレーナー1枚で25℃ぐらいの方が無理なく電気の消費量も少なく済みます。

冬でも半袖で過ごしたい人はそうすればいいだけで、自分たちが快適と思える温度設定にしましょう。

冬でも半袖は人それぞれ

まとめ

高気密高断熱住宅は非常に良いものですが、住む人の住まい方によっても結果は変わってきます。
あくまでも自然の摂理であり、使い方によっては暑い・寒いや結露が発生するということは理解しておきましょう。

結露が発生するからといっても、けっして欠陥住宅とは限りません。
温度ムラが出ても、数℃程度だったりします。

人間とは贅沢なもので、良い環境にいればより良いものを求めてしまいます。
高気密高断熱住宅は高いキャパシティーを持っています。
ベースの環境を手に入れれば、後は工夫で改善していくことを忘れてはいけません。
だって、高気密高断熱住宅はまだまだ始まったばかりなのですから。

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